商標権を侵害された場合は
「銘柄そのものを無断で使用されている」
「自社ブランドの製品であると思わせるような販売方法と思われる」
「そっくりなラベルを貼った清酒が海外から輸入されている」
そのようなことが起きた場合、早期に止めさせなければ被害が拡大してしまいます。
商標権侵害ではないか?
と気づいたら、何をすれば良いでしょうか。
差止請求や損害賠償請求などをするとしたら、まずは商標権侵害の証拠を十分に確保する必要があります。
例としては下記のようなものです。
「商標権侵害と思われる商品やサービスの販売状況を撮影した画像、スクリーンショット等」
「商標権侵害と思われる商品やサービスを提供している相手とのメッセージやメールのデータ」
商標権侵害は犯罪です
商標権侵害は犯罪に当たるため、刑事告訴することができます(刑事訴訟法230条)。
商標権侵害の法定刑は「専用権侵害」もしくは「禁止権侵害」となりますが、いずれも軽くはありません。
「専用権侵害」に該当するのは、登録商標と全く同一の商標を、商標権者に無断で使用する行為ですが、この場合は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(商標法78条)が課せられます。
「禁止権侵害」に該当するのは、登録商標の商品やサービスであると誤認されるような紛らわしい行為ですが、この場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金(同法78条の2)が課せられます。
(※いずれも併科あり)
さらに加害者が法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者である場合には、両罰規定によって法人にも「3億円以下の罰金」が科されます(同法82条1項1号)。
このように多額の罰金を命じられる可能性があります。
商標侵害に対する損害賠償の流れについて
商標を侵害された場合、図の手順に従って商標権侵害を主張することができます。
「専用権侵害」を立証することは比較的容易ですが、「禁止権侵害」の立証は類似性を主張する必要があるため、弁護士や弁理士等の専門家に相談しないと難航する場合も多くありますのでご注意下さい。
①侵害の確認
・該当の商標が商標登録されていること(商標法18条1項)
・「専用権」または「禁止権」によって保護された使用行為であること
・商標的使用に該当すること
「商標的使用」というと難しいですが、自分自身の氏名であったり、日本酒で言えば『正宗』や『男山』のような慣用商標であったりする場合は、商標権侵害とは判断されません。
また、飾りとして商標類似の図柄や文字を使った場合も、商標権侵害と判断されないこともあります。
上記の3つの要件を満たさない場合、商標権侵害と判断されないこともあります。
②差止請求
①で侵害が確認された場合は、その侵害の停止または予防を請求できます(商標法36条1項)。
侵害行為を組成した物や設備の廃棄や除却、その他の侵害の予防に必要な行為も併せて請求できます(同条2項)。
もし海外から商標権を侵害する貨物が輸入されようとしている場合は、商標権者は税関長に対して、輸入の差し止めを申し立てることができます(関税法69条の13)。
具体的には、まず内容証明郵便を送付し、侵害行為の停止や損害賠償などを求めるのが一般的です。
同時に、仮に訴訟になった場合を想定し、裁判所に対する仮処分申立てをして被害の拡大を阻止する必要があります。
③強制執行
②で仮処分命令が確定した後も加害者が商標権侵害の停止・予防や損害賠償を拒否する場合には、裁判所に強制執行を申し立てることができます。
強制執行の方法は「間接強制」と「直接強制」があります。
「間接強制」とは、侵害行為の停止・予防の義務を履行するまでの間に発生した費用について、支払いを義務付けるものです。
「直接強制」とは、強制的に加害者の財産を差し押さえて、損害賠償請求権の弁済に充当するものです。
④損害賠償請求
商標権侵害によって受けた損害については、犯罪として加害者を刑事告訴し、不法行為に基づく損害賠償の請求をすることができます(刑事訴訟法230条・民法709条)。
不当利得返還請求(民法703条・704条)による利得額の返還を請求することもできますが、損害賠償と競合する部分に関しては二重取りは認められないため、ご注意下さい。
また、故意または過失によって商標権を侵害した者に対しては、謝罪広告や訂正広告の掲載などの信用回復措置を請求できます(商標法39条、特許法106条)。
商標侵害に備えることが大切です
今年は海外からの観光客も大幅に増え、日本料理店への客足も戻りつつあるようです。
日本料理と清酒、焼酎への注目度も高まる中、銘柄やブランド侵害に対する対抗措置をまとめておく事が、トラブルを未然に防ぐことに繋がります。
特に海外への輸出を考えている皆さまが、知らず知らずのうちに逆に商標侵害してしまう可能性もないとは言えません。
是非とも有事の動き方についてもご検討することをお勧めします。